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2018年10月12日 (金)

「ミスターノーボディ」 「絞首刑」 「赤い河」

WOWOWで録画していたトニーノヴァレリのマカロニウェスタン「ミスターノーボディ」を見た。冒頭いきなり床屋に化けた殺し屋に主人公が髭を剃られるというスウィニートッド的な掴みで始まり強烈な緊張感で幕を開ける。と思ったらそのシークエンスの後に気の抜けた陽気な音楽とともにタイトルが出る。ノーボディと名乗る主人公は川で無邪気に魚を捕まえて喜んでおりあまりにものどかな雰囲気で冒頭とのギャップにびっくりする。監督のトニーノヴァレリはセルジオレオーネの愛弟子らしく、この主人公の人智を超えた存在に見えるキャラクターは一連のレオーネ映画のイーストウッドの役柄に非常に似ている。異なるのはイーストウッドが終始無口だったのに対し、ノーボディはふざけた調子で道化師のようにべらべらとしゃべりまくる。民俗学的な用語で言えばトリックスターという存在と言えるだろう。そのノーボディがヘンリーフォンダ演じる老ガンマンを150人の悪党集団と対決させ英雄にしようと付きまとう。この無法者集団が馬を駆り立て、エンニオモリコーネの勇ましい音楽(なぜか後半のメロディーがワルキューレの騎行のアレンジになる)とともに劇中で何度も登場するのが言語化不能な感動を覚える。主人公はたちとはなんのコミュニケーションもないが、いつか対決の時が来るという運命の因果を感じさせるのだ。途中サーカスのような団体が登場し小人症の敵と戦うシーンがあり、ホドロフスキーのような妖しさもあってマカロニウエスタンの中でも異色な味わいがある。

次に大島渚の「絞首刑」。絞首刑に処したにも関わらず肉体が死ななかった死刑囚が、首を吊ったショックで犯行の自覚がなくなってしまい、法的に心身喪失の者に刑を執行できないので、役人たちがなんとか記憶を蘇らせようと事件を再現などを始める、っといた内容。後半に行くに従って死刑制度に加え、在日朝鮮人や貧困、性欲と犯罪、近親愛、アイデンティティー、空想と現実の認識などといった議論が複雑に絡み合い、正直訳が分からなくなってくるが興味の持続は尽きない。議論されている問題に対して考察する暇もなく次から次へとハイスピードに会話が展開するので頭が全く追いつかず終始かき回されるような状態に置かれる。しかし役人たちの立ち振る舞いは、真面目にやればやるほど滑稽になる。格調高い文体で書かれた判決文を読み上げながら、強姦事件を再現するべく中年の男たちが女役と犯人役に分かれ姦淫の状況を再現する様はあまりにも馬鹿げている。内容の下らなさに見合わない饒舌な物言いの差異からコメディ的な空気を創り出すというのは押井守の「ご先祖様万々歳」を思い出した。というより押井守がこういったATG作品の影響をアニメに持ち込んでいるのだろうが……

最後にハワードホークスの「赤い河」。おじいちゃんの家にあったDVDを勝手に持って帰った。どうせ見ることはないだろうから気づくまい。キャトルドライブと呼ばれる牛を移動させる旅を描いた西部劇でジョンウェインとモンゴメリークリフトの世代的な対立が描かれる。とにかく大量の牛の群れを移動させる様子の迫力がとてつもない。ピーターボグダノヴィッチの「ラストショー」で潰れる映画館で最後の上映としてこの映画がかかるシーンを見ていたが、引用されていたのは冒頭のキャトルドライブに最初に旅立つシーンで、鬨の声を上げる男たちのクローズアップが次々と映し出される。この演出はその後牛が暴走を始める所の危機感を表現するのにも使われる。こういったトラブルが連続する中でジョンウェインは次第に暴君的な振る舞いに走りついに見限られてモンゴメリークリフトが代わりに指揮を執ってリーダーの座を乗っ取るが、ジョンウェインはいつか殺してやるとモンゴメリークリフトを追いかける。主役にしてはかなりダークな一面を見せるジョンウェインは、人間としての恐ろしさが垣間見え単なるヒーローというわけにはいかない。モンゴメリークリフトが深い霧の中を歩きながらジョンウェインが追いついたかもしれないと怯えるシーンの演出は怪奇映画のようだ。町山智浩はこの映画はオイディプスコンプレクスの話だと解説していた。脚本の段階ではモンゴメリークリフトがジョンウェインとの決闘に勝利するという典型的な世代交代の物語になっていたそうだが、ハワードホークスとジョンウェインの保守的な思想性によってやはりウェインが負ける訳にはいかないという結果になったらしい。正統派西部劇の痛快さのうちにジョンウェインの不気味な暴力性がが微かに影を落とす作品だった。

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